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肝細胞がんの治療選択肢――肝切除を検討するうえで知っておくべきこととは?

肝細胞がんの治療選択肢――肝切除を検討するうえで知っておくべきこととは?
飯室 勇二 先生

山梨県立中央病院 院長補佐、医療局長、肝胆膵消化器病センター統括部長

飯室 勇二 先生

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肝がんの中でも多くの割合を占める肝細胞がんには、薬物療法や手術のほかにも多くの治療選択肢があります。治療方針については、がんの大きさや個数、転移の有無などによって判断されますが、肝がんの場合“肝予備能(かんよびのう)”を判定することも重要になります。今回は、それぞれの治療の概要や選択基準、肝切除を検討するうえで理解しておくべきことについて、山梨県立中央病院 院長補佐兼肝胆膵外科 飯室 勇二(いいむろ ゆうじ)先生にお話を伺いました。

肝細胞がんの治療には、手術(肝切除、肝移植)、ラジオ波焼灼療法(はしょうしゃくりょうほう)肝動脈塞栓療法(かんどうみゃくそくせんりょうほう)、薬物療法などがあり、治療方針は診療ガイドラインで定められた治療アルゴリズムに則って決定されます。

治療の適応は病状によって異なりますが、治療方針を検討するにあたってまず重要となるのが肝予備能です。肝予備能とは、肝臓に残されている機能のレベルを表わすものです。Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類により腹水やビリルビン値(黄疸(おうだん)の指数)などをスコア化し、A~Cの3段階で肝臓の障害度を評価します。

肝機能が十分に残っていれば治療の効果が期待できるものの、そうでない場合は治療がかえってリスクになる可能性もあるため、肝予備能は肝細胞がんの治療方針の決定において欠かせない指標の1つとなっています。

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肝細胞がんの治療方法は、肝予備能、転移の有無、がんの数や大きさなどを基準に検討します。

肝臓のがんができている部分を手術で切除する治療法です。詳しくは後述しますが、腫瘍(しゅよう)の数が3個以下かつ肝外転移がない場合に、第一選択となります。肝切除は腫瘍をその場できれいに取り除く治療法のため、肝がんの治療の中で根治的な治療方法の1つです。

皮膚の上からがんに特殊な針を刺して高周波(ラジオ波)を送り、腫瘍を焼く治療法です。腫瘍の数が3個以下かつ腫瘍の大きさが3cm以内である場合に推奨されます。

がんに栄養を運んでいる血管に塞栓物質を注入して血流を遮り、がんに栄養が届かないようにする治療法です。腫瘍の数が3個以下かつ大きさが3cmを超えるがん、もしくは4個以上のがんがある場合に検討されます。なお、塞栓物質の注入と同時に抗がん薬を使う治療法(肝動脈化学塞栓療法:TACE)もあります。

分子標的薬*や免疫チェックポイント阻害薬**などの薬を使用してがんの進行を抑える治療法です。肝予備能が比較的良好でがんの数が多い場合、肝外転移がある場合などに推奨されます。

*分子標的薬:がんを活性化させるタンパク質など、特定の分子を標的として作用する薬。

**免疫チェックポイント阻害薬:免疫ががんを攻撃する力にブレーキがかかるのを防ぐ薬。

Child-Pugh分類による肝臓の障害度がCでほかの治療ができないと判断される場合、肝移植が選択肢の1つとなります。肝移植とは、自身の肝臓をドナーから提供された肝臓に入れ替える治療法です。ただし、ドナーが見つからない可能性もあり、そのときには緩和ケア(がんによる体や心の苦痛を和らげるための医療ケア)が行われます。

先述のとおり、基本的には治療アルゴリズムに則った治療を検討することとなりますが、患者さんの状態に合わせて複数の治療法を組み合わせて行うケースもあります。たとえば、2つ以上のがんが肝臓の表面近くと奥のほうにある場合、表面に近いものには肝切除を、手術が難しい奥のものにはラジオ波焼灼療法を実施することがあります。発生しているそれぞれのがんの状態に合わせて治療法を選択することにより、肝切除の範囲を少なくでき、患者さんへの負担を抑えた治療が可能です。

また、近年では肝動脈化学塞栓療法(TACE)と薬物療法を組み合わせた治療が行われるようになり、肝動脈化学塞栓療法を単独で実施するよりも治療効果が向上するとの報告もあります。

肝切除はがんができている部分を切除し、がんをゼロにすることを目指す治療法ですが、手術である以上リスクがないわけではありません。ここからは、肝切除を検討している患者さんや、ご家族の方に知っておいていただきたいことについて解説します。

Child-Pugh分類による肝臓の障害度がAもしくはB・肝外転移がない・腫瘍が3個以内の場合には肝切除が推奨されます。年齢による制限はありませんが、全身麻酔下で手術を行うため、心肺機能が十分維持されていることが前提となります。

手術方法には、開腹手術と腹腔鏡下肝切除術(ふくくうきょうかかんせつじょじゅつ)があります。開腹手術は文字どおりお腹を開けて行う手術であり、腹腔鏡下肝切除術はお腹に小さな穴をいくつか開け、そこから腹腔鏡(カメラ)や手術器具を挿入して行う手術です。長期成績については、どちらも同等との報告がなされています。腹腔鏡下肝切除術は2010年に保険適用となり、広く行われるようになりました。小さな傷口で済んだり、出血が抑えられたりするメリットがあり、そのぶん早期回復も見込めます。開腹手術でなければならない例を除き、基本的に腹腔鏡下肝切除術が選択されることが多くなっています。

(腹腔鏡下肝切除術に関しては次のページで詳しく解説します)

肝切除は根治的な治療法ではありますが、手術後に肝がんが再発する可能性は残ります。再発には2種類あり、肝臓内で転移が起こる場合(肝内転移)と残った肝臓に新たにがんができる場合(多中心性発生)があります。もともと肝臓に炎症などがあってがんができるわけですから、一度手術でがんを取り除いたとしても残った肝臓に新たにがんが発生することも珍しくありません。なお、肝細胞がんは、一般的ながんの経過観察期間である5年を超えても再発する可能性があるため、長期にわたり継続的な経過観察が必要となります。

肝臓には胆汁をつくる役割があるため、切除した肝臓の断面から胆汁が漏れる“胆汁漏(たんじゅうろう)”が起こることがあります。また、一般的な手術でも起こり得るような出血や感染症といった合併症も起こる可能性があります。なお、ごくまれではありますが、肝予備能を考慮して手術を行っても、肝臓がまったく機能しなくなる“肝不全”が起こることもありますので、選択の際には必ず医師からリスクや合併症についての説明を聞いたうえでよく相談してから決定することをおすすめします。

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